― 羽 化 ―

薄く白い月が真夜中の空に浮かんでいる。
月は、森の中の澄んだ泉へ静かに光を落とす。
少女がひとり、沐浴をしている。
人目を避けるように。
少女が想う、妖からその身を隠すように。

「いつからだろう…」少女は呟く。

少女が幼い頃、羞恥心など無かった。
ずっと一緒に旅をしている妖の前で肌を露わにし、水を浴びた。

やがて。
背が伸び、腕が伸び、脚が伸び。
肌や髪は豊かに、滑らかに、艶やかに。

いつの間にか「少女」から羽化し始めている。
身体の内に秘めた美しい羽根は、芳しい香を放とうとして
今かとその時を待っている。

少女の想う妖が、その香を一人占めようとしていることを
少女は知らない。


2007.4.9 @Richomaru